SAPを専門とするSEのY.U. さんは、IT技術者派遣・請負開発を行うパートナーの新卒入社第一期生。この度パートナー全300人のSEの最優秀賞である2020年度「SE OF THE YEAR」を受賞。そんな Y.U. さんにSAPエンジニアとしての思いをお聞きしました。
1976年4月生まれ。千葉県茂原市出身。大学卒業後、株式会社パートナーの第一期生として入社。SAPエンジニアとして、新基幹システム開発(医薬メーカー、商社、飲料メーカー、自動車部品メーカー等)の開発に携わる。また、開発場所もさまざまで、単身赴任にて九州、名古屋、大阪などに年単位で赴任し、経験を積み重ねる。一方、家庭では育ち盛りの8歳と5歳の男の子を抱える良き父親である。
人が育つ「しくみ」づくり、
次の世代につなげたい。
01.文系でもITの仕事をやってみたい
顧客とコミュニケーションを
とれる人材はニーズが高い
SAPのコンサルって、まだまだ盛り上がるんじゃないか
―― なぜパートナーに入社されたのですか?
私が入社した頃はIT業界が非常に盛り上がっていた時期で、その中でも注目されていたのがSAPシステム。私は文科系学部(商学部)でしたが、SAPはプログラムを組むために必要な理系人材より、企業に対してコンサルティングを行う文系人材へのニーズが高いと聞きました。専門的なプログラム知識よりも、顧客とコミュニケーションを取って、SAPシステムを導入してもらう仕事。「これを仕事にしよう!」と決めました。
IT業界の仕事は「カッコいい!」イメージがありましたが、実際に仕事を始めると、ハードな毎日が待っていました。何しろ、入社した頃は右も左も分からない状態。目の前にある仕事をただただこなしていく。体力的にはきつかったですが、「このプロジェクトはたまたま特別大変なだけだ!」と自分に言い聞かせて、仕事を覚えていく内に徐々に慣れていきました。
―― 成長の転機となったプロジェクトってありますか?
SAPエンジニアとして、自動車の部品メーカーや飲料メーカーなど、工場における生産系モジュールの仕事を担当していました。そのころ携わった地方での、あるプロジェクトが印象に残っています。現地に行って、現場の人たちと話を詰めながら、どのようにシステム導入していくかを決めていくわけです。
導入に際して会議で決まったことを、現場の職人気質の人たちに「最初は忙しくなるかもしれないけれど、一元管理ができる基幹システムを導入することは、会社全体として大きな意味と価値があります!」と言い続け、理解を得られたおかげで無事導入できました。このスタンスは、今でも変わっていませんし、良い経験になったことを覚えています。
仕事、就業先の人たちとのかかわりがエンジニアとして育ててくれた
入社間もなく、SAPの新人向け研修に参加することになりました。ここではプログラムについて本格的に学べ、このネットワークから、その後の仕事へのつながりができました。
当時、すでに基幹業務システム(ERP)が乱立していましたが、世界的なスケールで考えるとSAPは別格として位置づけられます。業界の中でのSAPの立ち位置がしっかりしていたことも、仕事を長く続ける要因になりました。また、最初に就いた現場ではプログラムの作成から詳細設計、概要設計の部分まで携わることができ、スキルアップするためには良い環境だったとも言えます。キャリアを振り返ってみると恵まれていましたね。
その後も現場へ単独で常駐することが多くハードではあったものの、「自分がやらなければ!」という気持ちがあった分、モチベーションを高く持って仕事を続けることができました。
一般の企業でOJTといえば、自社の先輩社員からいろいろと学び、ステップアップするスタイルになるでしょうが、私の場合、就業先の方々から学びながら成長できたわけで、本当に人間関係に恵まれましたね。
02.さまざまな分野経験がキャリアアップに
就業先に恵まれながら、
プロとして仕事を
SAPを導入する会社の場合、大きく医薬系、飲料系、機械(組み立て)系の3系統に分かれますが、各系統では業務の流れは基本的に共通しています。私の場合、詳細な部分も含めて、これらの業務の流れを一通り経験できたことが、SAPエンジニアとしてのキャリア形成に寄与してきたといえます。
また、キャリア形成という意味では、職場環境の変化も大きい。同じ現場に長くいると、業務がマンネリ化したり、人間関係の問題も出てきたりします。そうした時に、自分を必要としてくれる場所から声がかかると、また新たな気持ちで頑張ることができます。
改めてですが、私は人と就業先に恵まれました。SAPエンジニアとしてパートナーという会社に属しながらも、一人のプロとして就業先で仕事をしてきたからこそ、この点を強く感じます。
―― そうすると、次は Y.U. さんが後輩のキャリア開発の面倒を見ていく立場になりますね。
03.SAPエンジニアとしての育成スキームを
チームで取り組み、
アドバイスやフォロー
営業部門の人たちとこれからのパートナーとしての教育について話し、「SAPエンジニアの育成スキームを作ろう!」と、2020年5月から2カ月、SAPエンジニア向けの研修に人材を派遣しました。公式な形としては、初めての試みだったと思います。
SAPチームに久しぶりに新卒者を迎え、彼らに研修を受講してもらったわけですが、残念ながらコロナ禍の状況となってしまいました。研修終了後は自宅待機して、SAPエンジニアとしての勉強を続けてもらいました。
2021年になって、私が新たなプロジェクトに参加した際に彼らを迎え入れ、もう一人の後輩社員も含めて4人体制(2人が新人)を組み、チームとして就業することになりました。これなら昔の私のように、たった一人で仕事をするわけではありません。ですから、自分自身の経験を踏まえてアドバイスやフォローを考えています。
できればストレスの少ない仕事環境を作って、若い人を潰してしまわないようにしたい。この点には、とてもこだわっています。
04.コロナ禍だからこそ育成の機会が必要
独り立ちを支援する
「エスカレータ」を
コロナ禍の状況下、在宅での就業が中心となっています。
正直、在宅では後輩の仕事を見て、育成するのはなかなか難しいです。そこで定期的に本社(東銀座)に来てもらい、その時々の状況、問題点に対するフィードバックを中心に、注力すべきポイントを伝えるなど、キメ細かな指導を行っています。また、せっかくの対面ですから、指導した時にどのような反応をするか、それを見ながらアドバイスするようにしています。
新人はやり方がわからずに考え込んでしまう場面が少なくありません。その結果、スケジュール的に間に合わないのでは仕事の進め方として一番ダメです。そこで、「分からなったらすぐに聞き、一度聞いたことは覚える」ことが大切だと繰り返し指導しています。
―― パートナー流の新人、若手の育成方法を作ろうとしているんですね。
そうです。一般的な企業では、人材育成の仕組みやノウハウとして、新人を育てるための「エスカレータ(階段)」を用意しています。人材を派遣、常駐させる私たちのような業態では、さまざまな職場に就業しますし、固定的に長期間勤務することは稀です。そのため現場で直接本人に教えるOJTの機会を会社として設けにくく、教育という観点では、難しい業界であると言えます。
だからこそ、一般的な業界とは違う形で独り立ちを支援する「エスカレータ」を設ける必要があると感じていて、現在構築している最中です。先輩社員として指導したくても、現場が異なると、直接的に目が届かないため、フォローはすぐにはできません。教えるのに時間もかかります。だから直接会った時に、「覚えるべきことを、しっかりと教え込むこと」がとても重要なのです。
SAPでの開発プロセスは、大きく「要件定義→基本設計→概要設計→プログラム作成→テスト→本番稼働(→バグ修正→再稼働)」という流れとなります。新人が就業する場合、プログラム作成から入り、テストが終わった段階で能力を発揮している新人にしか、その後の業務には仕事が回ってこない。エンジニアとして生き残るためにもしっかり覚えてほしいのです。もし、このプロジェクトで次の業務ができなくても、人材派遣の場合、他にスキルに見合ったプロジェクトがあれば、そこに就業することができます。
エンジニアは、まず、テクニカルスキル(技術)を身に付けることが第一ステップ。プログラムの作成能力です。プログラマーが関わるのは現場の基本設計者、詳細設計者となりますから、最初は技術力で認めてもらうことが必要です。その後、組織上の階層を上がっていくに従い、プロジェクトマネージャーや事業部長などとの人間関係を構築していきますから、より高いヒューマンスキルが求められていきます。
一般的に、エンジニアの場合、テクニカルスキル中心で仕事をしていきたい人と、ヒューマンスキルを活かして人との交渉部分(コンサルティング)で力を発揮したい人に二分される傾向がありますが、これはどちらもありだと考えています。
パートナーは300人規模の会社ですが、昨年、新しい経営体制となり、非常に風通しの良い組織となったと感じています。社内のいろいろな声が届いて業務に反映されやすくようになりました。人材育成のためには好機到来、です(笑)。
「SAPエンジニアの人材育成を通じて、パートナーの新たな強みを創りたい」
私の場合、これまで「対顧客」で就業先との信頼関係をしっかりと築き、次につなげていくことが第一でした。しかし、新たに新人を迎え、私の意識も変わりました。前途未来のある彼らのキャリアをいかに考え、その道筋を作っていくか。これが次代のパートナーに不可欠なことではないかと考えるようになったのです。
私自身、ずっと現場で働けるわけではないかもしれない。新しい技術に伴い、若い世代を育てるのが、これからの私の仕事ではないかと。そんな考えを営業部門の方たちはいろいろと相談に乗ってくれました。
就業場所や人員確保など問題は山積していますが、パートナーなりの「人(SAPエンジニア)がスライドしていけるシステム」を、営業をはじめ、全社的な協力体制の下、何とか構築していきたいと思っています。それがSAPエンジニアを大事に育てるパートナーとしての、新たな強みとなればいいですね。
―― 人を育てていくことが、会社経営にとっては非常に重要なテーマですね。
今は、私のチームで取り組んでいるところですが、今後、これを全社的に広げていきたいです。業界全体でも、SAPエンジニア育成のためのノウハウは、まだ確立していません。
各チーム(就業先)別に、誰が先頭に立ち、フォローしながら、どのように仕事を進めていくと、結果を出すことになるか。同時に、それが本人のキャリア形成にどうつながるのか、具体的な画が必要とされています。
いわゆる「暗黙知」を「形式知」としていくエスカレータを作ること。そして、それをベースに状況に応じて改善していけばいいと考えています。
パートナーが人材育成のエスカレータ、ノウハウとしくみを持てれば、個人個人のスキルアップの「ビジョン」が提供できます。そうすれば、長く頑張って働きたいと思ってもらえ、組織に対する「帰属意識」が育まれます。それが、優秀な人材が集めるための「肝」となるはずなのです。
05.働き続けられる会社であるために
新卒一期生として、
組織の土台形成を
私が新人だった頃、教えてもらった経験がなく淋しい思いをしたので、今の新人には絶対そうした思いはさせたくありません。少なくとも、自分の気持ちを分かってもらえる人がいることが、働き続ける上で大きな「支え」となるのは間違いないと思っています。
そして、教えてもらった人は、その支えを決して忘れません。次に、自分が上の立場になった時、必ず「恩返し」をしようと思うはず。そうした人材育成の「連鎖」を作り上げていきたいですね。
スポーツなどの組織を見ても、最初から名門チームはありません。最初に、確固たる信念を持った指導者がいて、その精神が脈々と受け継がれていく組織文化があって、初めて名門チームができるわけです。そうした土台ができれば、人が変わっても土台は変わりません。これは、あらゆる組織について言えることではないでしょうか。
―― 本当にそう思います。派遣業界の状況を考えた時に、その考えはとても重要ですね。
インタビュアー:人材マネジメント・ライター 福田敦之
2021年3月26日 於:パートナー本社にて(東京都中央区・銀座)
インタビューを終えて
●キャリアを「投影できる人」の存在が次代を造る●
私は人材マネジメントに特化したモノ書きとして、人材派遣法が施行された1986年以降、長くこの業界を見てきました。その経験から言っても今回、 Y.U. さんのお話を伺うにつれ、新卒入社第一期生だからこそ感じる仕事に対する思いと、これからの課題を的確に捉えていることに対して、強い共感を覚えました。
特に、一人でずっと就業してきて、成果・結果を出し、周囲からの信頼を勝ち得てきたこと。それゆえに、これからの業界における人材育成の重要性を、人一倍強く感じているのだと思います。
今後、人材の流動化がますます進む中にあって、 Y.U. さんのような人がこれからの業界を引っ張っていってほしいと、強く感じた次第です。改めてですが、「組織は人なり」。だからこそ、 Y.U.さん式の人材育成のアプローチが不可欠ではないでしょうか。
福田敦之
人材マネジメント分野を中心に、ライター として取材活動を行いながら、人事・教育関連の主要専門誌やWebサイトへと執筆。他方、ベンチャー企業 に対する人事・教育コンサルティング、人事制度設計・導入、大学等での講師を歴任している。